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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)1425号 判決 1993年12月27日

甲事件原告(乙事件被告)

末吉薫

ほか一名

甲事件被告(乙事件被告)

ケイジー物流株式会社

ほか一名

乙事件原告

斉藤勝男

ほか一名

主文

一  甲事件被告ケイジー物流株式会社及び大阪浩は、甲事件原告末吉薫及び末吉タカ子各自に対し、連帯して、それぞれ、八〇八万八〇九九円、及び二三〇八万八〇九九円に対する平成三年九月一八日から平成四年八月一〇日までの、八〇八万八〇九九円に対する平成四年八月一一日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告ケイジー物流株式会社及び大阪浩は、各自、乙事件原告斉藤勝男及び前田智慧子に対し、それぞれ一七七六万一二八一円、及び三七一一万五七六一円に対する平成三年九月一八日から平成五年一月二五日までの、一七七六万一二八一円に対する平成五年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告末吉薫及び末吉タカ子の甲事件被告ケイジー物流株式会社及び大阪浩に対するその余の請求、乙事件原告斉藤勝男及び前田智慧子の乙事件被告末吉薫及び末吉タカ子に対する請求並びに乙事件被告ケイジー物流株式会社及び大阪浩に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲・乙両事件を通じて、各自の負担とする。

五  右一・二は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

【甲事件】

(甲事件原告らは「原告末吉ら」、甲事件被告らは、合わせていうときは「被告ら」、個別にいうときは「被告会社」、「被告大阪」という。)

1  原告末吉ら

(一) 被告らは、原告末吉ら各自に対し、連帯して、それぞれ、三八七三万八五〇〇円、及び五三七三万八五〇〇円に対する平成三年九月一八日から平成四年八月一〇日までの、三八七三万八五〇〇円に対する平成四年八月一一日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  被告ら

(一) 原告末吉らの被告らに対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告末吉らの負担とする。

【乙事件】

(乙事件原告らは、合わせていうときは「原告斉藤ら」、個別にいうときは「原告斉藤」、「原告前田」、乙事件被告末吉薫及び末吉タカ子は「原告末吉ら」、同被告ケイジー物流株式会社及び大阪浩は、合わせていうときは「被告ら」、個別にいうときは「被告会社」、「被告大阪」という。)

1  原告斉藤ら

(一) 原告末吉ら及び被告らは、各自、原告斉藤らに対し、それぞれ二五七二万八六六〇円及び四五〇八万三一四〇円に対する平成三年九月一八日から平成五年一月二五日までの、二五七二万八六六〇円に対する平成五年一月二六日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告末吉ら及び被告らの負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  原告末吉ら

(一) 原告斉藤らの原告末吉らに対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告斉藤らの負担とする。

3  被告ら

(一) 原告斉藤らの被告らに対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告斉藤らの負担とする。

二  当事者の主張

【甲事件】

1  原告末吉らの請求原因

(一) 交通事故の発生

次の交通事故により、被害車を運転していた訴外末吉祐貴(以下「亡祐貴」という。)と同車に同乗していた二名の者が死亡した。

(1) 日時 平成三年九月一八日午後一一時二〇分ころ

(2) 場所 千葉県市川市原木二四九〇番地一 東関東自動車上り〇・六キロポスト先路上

(3) 加害車 事業用普通貨物自動車(千葉一一き四四四四)

運転者 被告大阪

使用者・保有者 被告会社

(4) 被害車 自家用普通乗用自動車(横浜七七す四七)

運転者・所有者 亡祐貴

(5) 態様 右場所付近に何らかの原因で停車中の被害車の後ろから来た加害車が衝突。

(二) 被告らの責任原因

(1) 被告大阪

被告大阪は、加害車を運転するに当たり、自動車運転者として、前方を十分注視し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と制限速度を約三〇キロメートルも超過する速度で走行した過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、亡祐貴及び原告末吉らの被つた損害を賠償する責任がある。

(2) 被告会社

被告会社は、加害車の運転者である被告大阪の使用者で、かつ加害車の所有者であり、また、被告大阪は被告会社の業務従事中に本件事故を惹起したものであるから、民法七一五条及び自動車損害賠償保障法三条に基づき、亡祐貴及び原告末吉らの被つた損害を賠償する責任がある。

(三) 損害

(1) 亡祐貴及び原告末吉らの本件事故による損害は次のとおりである。

<1> 亡祐貴

ア 逸失利益 八二一五万二〇〇〇円

亡祐貴は、本件事故当時一七歳で、大工として稼働しており、事故前一年間の収入は九〇〇万円であつたところ、事故によつて死亡しなければ六七歳までの五〇年間労働可能であつたから、その逸失利益は、生活費控除率を五〇パーセントとすると、

九〇〇万円×一八・二五六×(一-〇・五)=八二一五万二〇〇〇円となる。

イ 物的損害 二一二万五〇〇〇円

本件事故当時亡祐貴が所有していた被害車は、本件事故のため全損となつたが、平成二年六月二八日登録のもので、本件事故当時の価格は少なくとも二一二万五〇〇〇円を下らないものであつた。

<2> 原告末吉ら

ア 慰藉料 一八〇〇万円

原告末吉らは、亡祐貴を原告末吉らの営む事業の後継者として期待していたものであり、同人の死亡による原告末吉らの精神的損害は多大である。これに対する慰藉料としては各九〇〇万円ずつが妥当である。

イ 葬儀費用 一二〇万円

原告末吉らは亡祐貴の葬儀費用を負担したが、それについての賠償金額としては一二〇万円が相当である。

ウ 弁護士費用 四〇〇万円

本件事故の賠償請求に要した弁護士費用のうち、賠償請求できるのは四〇〇万円が相当である。

(2) 相続

原告末吉らは亡祐貴の父母であり、同人の前記損害についての賠償請求権を法定相続分に従つて二分の一ずつ相続した。

(3) 相続によるものを含む原告末吉らの損害の合計

原告末吉らそれぞれ五三七八万八五〇〇円(合計一億七四七万七〇〇〇円)となる。

(4) 損害の填補による損害残額

原告末吉らは、被告会社の加入している自賠責保険から本件事故に基づく損害賠償として三〇〇〇万円の支払を受け、一五〇〇万円ずつを各損害賠償請求権に充当した。したがつて、原告末吉らの各損害残額は三八七三万八五〇〇円(合計七七四七万七〇〇〇円)となる。

(四) よつて、原告末吉らは、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づき、被告らが、原告末吉ら各自に対し、連帯して、それぞれ、三八七三万八五〇〇円、及び五三七三万八五〇〇円(自賠責保険から合計三〇〇〇万円の支払を受けるまでの各自の損害)に対する本件事故日である平成三年九月一八日から右の支払を受けた前日である平成四年八月一〇日までの、三八七三万八五〇〇円に対する平成四年八月一一日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告らの答弁

(一) 請求原因(一)は認める。

(二) 同(二)は、被告大阪が制限速度を超過する速度で走行したことは認めるが、その余は争う。本件事故は、被害車が高速道路上に横に停止したことにその発生原因がある。被告大阪に過失はない。したがつて、被告らに責任はない。

(三) 同(三)は、原告末吉らが亡祐貴の父母であり、その法定相続分が各二分の一であることは認めるが、損害額は争う。

なお、原告末吉らは、亡祐貴の逸失利益を前年度年収の九〇〇万円を基礎として算出しているが、同人は一七歳の大工見習いであつて、父親の経営する末吉工務店で働いていたとき月額五〇万円を支払われていたとして、父親のもとを離れて他で働いていても同額の金員を父親から支給されていたのである。右五〇万円は亡祐貴の働きによる収入ではなく、同人が働いていても、いなくても支払われていたものであるから、それは労働の対価ではない。亡祐貴の逸失利益は同人の働きによる収入を基礎として算定されるべきであり、それが明らかでないのであれば、賃金センサスによつて算出するのもやむを得ないというべきである。

3  被告らの抗弁

(一) 免責

(1) 被害車は、台風が接近し、風雨の激しい高速道路を制限速度を超える速度で走行し、しかも、それは、ターボチャージャーの吸気圧を調整し、規定以上の出力が出せるように特別の装置を設けた改造車で、かつ安全走行が維持できないくらいに摩滅したタイヤ(溝の深さは、右前中央部〇・八ミリ、右後ろ内側一・一ミリ、左前内側一・三ミリ、左後ろ内側一・三ミリ)を取り付けていた整備不良車であつたため、後続車の走行を妨害する形で道路中央に横に停止した。

(2) 加害車は、三車線の中央車線を走行して本件事故現場に差しかかつたところ、夜間で雨が降つていたのと、被害車が横向きで反射板等による前照灯を反射するものもなかつたことから発見するのが遅れ、これに衝突し、本件事故に至つた。

(3) したがつて、本件事故は、被害車が中央車線に横に停止し、後続車に対する安全対策をとらなかつたことが原因であり、被告大阪に過失はない。

(4) そして、加害車に車両の運行に支障となる欠陥はなく、かつ構造上の欠陥もなかつた。

(二) 過失相殺

仮に、被告大阪に過失があつたとしても、被害車の運転者である亡祐貴に前記の過失があり、その割合は五割以上である。

4  被告らの抗弁に対する原告末吉らの答弁・反論

(一) 被告らの抗弁は不知ないし争う。

(二) 被害車が道路中央に停止していたのは被告らのいうとおりであるが、その原因は全く不明であり、被告らの主張は単なる推測にすぎない。被害車は、亡祐貴には何らの落ち度もなく、他の車両等に衝突されて停止した可能性も否定できないのであり、停止の原因が不明である以上、被害車が道路中央に停止したことをもつて過失相殺の根拠とするのは妥当とは思われない。また、右の停止原因次第では、亡祐貴において安全対策をとろうにもとれない状態であつた場合も十分考えられるのであつて、後続車との衝突を避けるべき安全対策を欠いたことを過失相殺の根拠とすることも妥当でないと考える。他方、本件事故発生時、被告大阪は、制限速度(雨天のため時速八〇キロメートル)を約三〇キロメートルも超える時速約一一〇キロメートル加害車を走行させていたのであり、停止中の被害車は少なくとも一〇〇メートル以上手前から発見することが可能であつたにもかかわらず、その直前に至るまでこれを認識しなかつたのである。要するに、本件事故の態様は停止車両に対する後続車両の追突であり、本件事故の主たる原因は、あくまで被告大阪の速度超過と前方不注視である。過失相殺の主張は理由がない。

【乙事件】

1  原告斉藤らの請求原因

(一) 交通事故の発生

次の交通事故により、被害車に同乗していた訴外斉藤孝(以下「亡孝」という。)は脳挫傷によつて死亡した。

(1) 日時 平成三年九月一八日午後一一時二〇分ころ

(2) 場所 千葉県市川市原木二四九〇番地一 東関東自動車道上り車線上

(3) 加害車 千葉一一き四四四四

運転者 被告大阪

(4) 被害車 横浜七九す四七

運転者 亡祐貴

(5) 態様 被害車が右道路を東京方面に向けて第一車線を走行中、スピンして同車線を飛び出して後ろ向きに第二車線上で停止したところへ加害車が衝突した。

(二) 被告ら及び原告末吉らの責任原因

本件事故は、被告大阪が加害車を制限速度を超えて走行させたこと(制限速度八〇キロメートル毎時のところ時速一一五キロメートル)及び前方不注視の過失があつたこと、並びに亡祐貴に安全運転義務違反があつたことによるものであり、被告ら及び原告末吉らには次の責任がある。

(1) 被告ら

<1> 被告大阪

被告大阪は、本件事故について右の過失があつたから、民法七〇九条に基づく責任がある。

<2> 被告会社

被告会社は、被告大阪の雇い主であり、本件事故は被告大阪が被告会社の業務中のものであるから、民法七一五条に基づく責任がある。

(2) 原告末吉ら

亡祐貴(当時一七歳で未成年)は本件事故について右の過失があつたところ、原告末吉らは亡祐貴の親権者であつたから、亡祐貴の不法行為について親権者としての損害賠償責任を免れない。

(三) 損害

(1) 亡孝及び原告斉藤らの本件事故による損害は次のとおりである。

<1> 亡孝

ア 逸失利益 六三〇一万七五〇〇円

亡孝は、本件事故当時一八歳であり、その逸失利益は次のとおりである。

五三三万六一〇〇円(平成三年賃金センサス男子労働者学歴計)×〇・六五×一八・一六八七(四九年のライプニツツ係数)=六三〇一万七五〇〇円

イ 慰藉料 二四〇〇万円

亡孝は、高等学校を中退した後、本件事故当時は鉄筋工として有限会社山崎鉄筋に勤務し、母親の原告前田が体が弱くて働くことができないためこれを扶養していた。したがつて、亡孝は当時一家の支柱の地位を有していたというべきであり、その死亡慰藉料としては二四〇〇万円が相当である。

<2> 原告斉藤ら

ア 葬儀費用 二一四万八七八〇円

原告斉藤らは亡孝の葬儀費用として右金額を出捐した。

イ 弁護士費用 一〇〇万円

原告斉藤らは、本件訴訟の提起・遂行をその訴訟代理人に依頼し、着手金及び報酬を日本弁護士連合会の報酬基準内で合計四五〇万円支払う約束をした。現段階では内金一〇〇万円の支払を求める。

(2) 相続

原告斉藤らは亡孝の父母であり、同人の前記損害についての賠償請求権を法定相続分に従つて二分の一ずつ相続した。

(3) 相続によるものを含む原告斉藤らの損害の合計

原告斉藤らそれぞれ四五〇八万三一四〇円(合計九〇一六万六二八〇円)となる。

(4) 損害の填補による損害残額

原告斉藤らは、自賠責保険から本件事故に基づく損害賠償として三八七〇万八九六〇円の支払を受け、一九三五万四四八〇円ずつを各損害賠償請求権に充当した。したがつて、原告斉藤らの各損害残額は二五七二万八六六〇円(合計五一四五万七三二〇円)となる。

(四) よつて、原告斉藤らは、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告末吉ら及び被告らが、原告斉藤ら各自に対し、それぞれ、各損害の一部である二五七二万八六六〇円、及び四五〇八万三一四〇円に対する平成三年九月一八日から平成五年一月二五日までの、二五七二万八六六〇円に対する平成五年一月二六日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する原告末吉ら及び被告らの答弁

(原告末吉ら)

(一) 請求原因(一)は、概ね認める。

(二) 同(二)は、亡祐貴及び原告末吉らに関する部分は争う。

(三) 同(三)は不知。

(被告ら)

(一) 請求原因(一)は認める。

(二) 同(二)は、被告らに関する部分は認める。

(三) 同(三)は、原告斉藤らと亡孝との身分関係及び相続分の点は認め、損害額は不知。

3  原告末吉ら及び被告らの抗弁

(原告末吉ら)

(一) 好意同乗

亡孝は、亡祐貴運転の被害車に同乗中本件事故に遭つたものであるところ、亡孝と亡祐貴とは中学時代の同級生で、その当時から事故当時まで友人同士であつた。また、本件事故当時は深夜で、しかも雨が降つており、車両の運転にはかなり危険な状況であつた。亡孝はこのような危険な状況を認識しつつ被害車に同乗したのである。仮に亡祐貴及び原告末吉らの責任が肯定される場合には、損害の算定につき右のような事情が十分に斟酌されるべきである。

(二) 損害の填補

原告斉藤らは本件事故による損害について次の支払を受けている。

(1) 原告末吉側自賠責保険金 八八四万一〇〇〇円

(2) 被告会社側自賠責保険金 三〇〇〇万一〇〇〇円

(3) 原告末吉側搭乗者保険金 一〇〇〇万円

(被告ら)

(一) 免責

甲事件の被告らの抗弁(一)と同じ。

(二) 過失相殺

甲事件の被告らの抗弁(二)と同じ。

4  原告末吉ら及び被告らの抗弁に対する原告斉藤らの答弁

(原告末吉らの抗弁について)

(一) 抗弁(一)(好意同乗)は争う。

亡孝と亡祐貴とは単なる友人関係にとどまり、身分上・生活関係上一体をなす関係にあると認められる事情は存しないから、原告末吉ら主張の点は損害額の算定について斟酌されるべきではない。

(二) 同(二)(損害の填補)について

(1) 原告斉藤らが本件事故による損害について支払を受けたのは、合計三八七〇万八九六〇円(日本火災海上保険株式会社から八八四万一〇〇〇円、日産火災海上保険株式会社から二九八六万七九六〇円)である。

(2) 搭乗者死亡保険金は、法律上の賠償責任を負担すると否とを問わず保険約款に基づいて支払われるもので、一種の見舞金としての性質を有すると考えられ、また、保険金が支払われた場合でも第三者に対する損害賠償請求権は保険会社に移転しない(すなわち、保険者の代位が認められていない)性格を有するから、損益相殺の対象たるべき利得に当たらないものであり、控除すべきではない。

(被告らの抗弁について)

(一) 抗弁(一)(免責)は、(4)は不知、その余は否認ないし争う。

(二) 同(二)(過失相殺)は争う。

三  証拠関係

記録中の書証目録・証人等目録のとおりである。

理由

一  交通事故の発生とその態様等

1  当事者間に争いがない事実、甲第一ないし第三号証(なお、書証の成立関係は記録中の書証目録のとおりであり、成立に争いのないもののほかは弁論の全趣旨により成立を認める。)、乙第四号証、第六号証、第一三号証及び弁論の全趣旨によれば、次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生したことが認められる。

(一)  日時 平成三年九月一九日午後一一時二〇分ころ

(二)  場所 千葉県市川市原木二四九〇番地一 東関東自動車道上り〇・六キロポスト先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三)  加害車 事業用大型貨物自動車(千葉一一き四四四四)

運転者 被告大阪(昭和三九年一〇月八日生まれ。被告会社従業員〔自動車運転手〕。当時二六歳)

使用者・保有者 被告会社

(四)  被害車 自家用普通乗用自動車(横浜七九す四七)

運転者・所有者 亡祐貴

(五)  事故の結果 亡祐貴(昭和四七年六月二九日生まれ。大工。当時一九歳)と被害車に同乗していた亡孝(昭和四七年一一月六日生まれ。鉄筋工。当時一八歳)及び訴外加藤雅也(昭和四八年一月二一日生まれ。専門学校学生。当時一八歳。以下「加藤」という。)の三名が死亡した。

2  当事者間に争いがない事実、右1の事実、乙第一ないし第一七号証及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故で死亡した亡祐貴、亡孝及び加藤は練馬区の大泉学園中学校の同級生で、卒業後も交際している間柄であつた。本件事故日である平成三年九月一八日夜、右三名が加藤の家にいたところ、右中学校の同級生である訴外武智大樹(以下「武智」という。)、同橋本純一(以下「橋本」という。)ほか一名の三名が武智運転の乗用車で加藤の家に遊びに来た。六名は、亡祐貴運転の被害車に亡孝及び加藤、武智運転の車に橋本ほか一名がそれぞれ同乗して加藤宅を出発し、近くのスーパーの駐車場で「これからどこへ遊びに行くか」などと六名で話し合つた結果、千葉県の市川パーキングの駐車場に、改造してある車を見るなどする「車の見せつこ」に行こうということになり、被害車及び武智運転の車に右同様に同乗して、首都高速道路高島平インターチエンジから市川パーキングに向けて出発した。両車は東関東自動車道に入り、武智運転の車が先行し、しばらくは被害車がその後方に続いているのが先行車から確認できたが、そのうち離れ離れになつてしまつた後、被害車は、本件事故付近の第二通行帯上で、前部を中央分離帯に向けその先端を第三通行帯にはみ出してほぼ真横になつた状態で停止した。

(二)  本件事故現場は、非市街地を走る、片側三車線(進行方向左側路側帯側から第一ないし第三通行帯。その各幅員は三・五メートル)、平坦なアスファルト舗装の直線道路で、中央分離帯(高さ〇・九四メートルのコンクリート塀)によつて対向車線と区分され、路側帯側に八〇メートル間隔で街灯が設置されている。規制最高速度は毎時八〇キロメートルである。本件事故当時、交通閑散であつたが、雨が降つており(土砂降りというほどではなかつたが、やや強目の降り方であつた。)、路面は湿潤状態であつた。

(三)  被告大阪は、加害車に雑貨類を積載して、本件事故当日午後一一時ころ西大阪に荷物を搬送するため千葉市所在の被告会社を出発した。同乗者はなかつた。被告大阪は、加害車を運転し、千葉北インターチェンジから東関東自動車道に入つた。加害車は、時速約一一〇キロメートルで第二通行帯を走行し、本件事故現場付近にさしかかつた。交通量は少なく、加害車の走行する第二通行帯については、被告は、やつと視界に入る程度の遥か前方に前車の尾灯を視認しただけであつた。第一通行帯も第三通行帯もまばらであつた。また、雨が降つてはいたが、前方の視界を妨げるものはなく、前記の街灯も点灯されていた。こういつた状態にあつて、被害車は加害車の進路前方の第二通行帯上にはほぼ真横になつて停止していた。その方向に向かつて時速一一〇キロメートル程度の速度で走行していた場合でも、前方注視を怠らなければ、少なくとも手前約一三〇メートル辺りでは進路前方に車両様物体としてこれを視認することができ、少なくとも手前一〇〇メートル辺りでは車両が停止していることを認めることができる見通し状況であつた。ところが、被告大阪は、約三八・九メートル手前に至つて初めて被害車が停止しているのを発見し、驚愕して急ブレーキをかけるとともにハンドルを右に切つてこれを避けようとしたが、ブレーキが効き始める間もなく加害車の前部が被害車右側面に衝突し、加害車はそのまま被害車を約四六メートル右前方に押し出して、その前部を中央分離帯に約九・四メートル擦過させ、加害車前部が被害車右側面に食い込んだ状態で第三通行帯上に停止した。右の発見・衝突当時、被害車は前照灯・尾灯等の点灯もなく、その存在を他に知らせるための格別の措置は講じられていなかつた。なお、被告大阪は、すぐ加害車を降りて被害車に近づき、被害車助手席に座つていた亡孝を車外に出したが、残る亡祐貴と後部座席の加藤は被害車が圧し潰された状態となつていたため車外に降ろすことができなかつた。加害車を数メートル後退させたうえ更に試みたが成功しなかつた。

(四)  被害車(マツダRX―七、五速マニュアル車)は、ターボチャージャー付きロータリーエンジンを搭載していたが、その吸気圧を調整し、規定以上の出力が出せるように特別の装置を設けた改造車であつた。運転席もレーシング用バケツトシートに改造されていた。また、亡祐貴は、平成二年八月に普通免許を取得し、被害車を買つて乗り回していたが、同月ころ及び同年一一月ころの二回、いずれも追突による人身事故を起こし、免許停止の処分を受けたり、その他の道路交通法違反により罰金に処せられたりしている。

右のとおり認められる。この認定を動かすに足りる証拠はない。

二  被告ら及び原告末吉らの責任

1  被告ら

(一)  被告大阪

一2で認定した事実によれば、本件事故は、加害車が時速約一一〇キロメートルで走行中その進路前方に停止していた被害車に衝突したというものであるが、当時、被害車ないしは車両様物体が停止していることは約一三〇メートルないし一〇〇メートル手前で認めることができた見通し状況にあり、加害車を運転していた被告大阪において、前方に対する十分な注視を怠らなければ被害車が停止しているのを発見して右衝突を回避する措置を講ずることができたはずであるところ、同被告は、被害車の手前約三八・九メートルに至るまでこれを発見しなかつたため、衝突回避の措置も間に合わず本件事故が発生したことが明らかである。したがつて、被告大阪には、前方を十分に注視して事故の発生を未然に防止すべき注意義務に違反した過失があり、同被告は民法七〇九条に基づく責任がある。

(二)  被告会社

当事者間に争いがない事実、前掲乙第四号証、第一四・一五号証、第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、被告会社は、被告大阪の使用者で、かつ加害車の保有者であり、また、本件事故は被告大阪が被告会社の業務として加害車を運転中に起きたものであることが認められる。したがつて、被告会社は、民法七一五条ないし自動車損害賠償保障法三条に基づく責任がある。

2  原告末吉ら

亡祐貴にも本件事故の発生について過失を認めるべきことは後記の認定・説示のとおりであるところ、同人が当時未成年(一九歳)であつたことは前記認定のとおりであり、当事者間に争いがない事実及び前掲甲第三号証によれば、原告末吉らは亡祐貴の親権者(父母)であつたことが認められる。

原告斉藤らは、右の事実関係に基づき、原告末吉らについて亡祐貴の親権者であつたことを理由に本件事故による損害を賠償する責任があると主張する。しかし、亡祐貴は、前記認定のように、当時未成年とはいえ既に一九歳であつただけでなく、前掲乙第一二号証及び原告末吉タカ子本人尋問の結果によれ感、同人は、中学校卒業と同時に社会に出て原告末吉薫の経営する有限会社末吉工務店で稼働したうえ、平成三年八月二九日ころからは原告末吉らのもとを離れて練馬区所在のマンションで一人で暮らしながら、訴外池上浩のもとで大工をして日給一万八〇〇〇円程度の収入を得ていたことが認められるのであり、本件事故当時、同人が責任能力を有していたことは明らかである。したがつて、原告斉藤らの右の主張は採用の限りでない。なお、原告末吉らが亡祐貴を相続したことを理由とするのであれば、同原告らの損害賠償責任を肯定する余地があり得ることはいうまでもないが、原告斉藤らが原告末吉らに対する責任原因について現にかかる主張をせず、また主張する意思を示していないことも明らかであるから、この点については判断しない。

三  損害

右一・二の認定・説示に基づき、原告末吉ら及び原告斉藤らの各損害を検討すると、次のとおりである。

1  原告末吉ら

(一)  亡祐貴の損害

(1) 逸失利益

亡祐貴は、本件事故当時、訴外池上に雇われて大工として稼働し、日給として一万八〇〇〇円を得ていたのであるが、前掲乙第一二号証によると、それは一時的・暫定的なものであることが明らかである。また、甲第四・五号証、第六号証の一・二、第八号証の一によると、亡祐貴について、その「給与所得の源泉徴収票」上、平成二年及び三年にいずれも有限会社末吉工務店から九〇〇万円が支払われたこととされ、その旨の確定申告もなされていることが認められるけれども、仮に、実際に亡祐貴に右の金員が支払われていたにしても、前掲乙第一二号証、原告末吉タカ子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右の金額のうちの相当部分は、本人の労働に対する客観的対価ではなく、親が子供に与える小遣いに類するものであつたことが明らかである。

右によれば、原告末吉らは亡祐貴の逸失利益の基礎とすべき事故前の収入を九〇〇万円と主張するが採用できず、本件において亡祐貴の逸失利益算定の基礎とすべき年間収入は、賃金センサス平成三年第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者学歴計、小学・新中卒全年齢の平均年収額四七七万三〇〇〇円をもつて相当と認める。

そうすると、亡祐貴の逸失利益は、次のとおり算定するのが相当であり、四三一四万九九九円となる。

四七七万三〇〇〇円(年間収入)×一八・〇七七一(稼働可能年年齢六七歳から死亡時の年齢一九歳を差し引いた四八年に係るライプニツツ係数)×(一-〇・五〔生活費控除率五〇パーセント〕)=四三一四万九九九円(円未満、切捨て)

(2) 物的損害

本件事故当時亡祐貴が所有していた被害車は本件事故によつて全損となつたところ、甲第七号証及び弁論の全趣旨によると、当時の価格は二一二万五〇〇〇円を下ることはなかつたものと認められる。

(二)  原告末吉ら固有の損害

(1) 慰藉料

前掲甲第一二号証及び原告末吉タカ子本人尋問の結果によると、原告末吉らは亡祐貴を事業の後継者として期待していたことが認められる。これと、本件では亡祐貴自身の慰藉料を請求していないこと、その他一切の事情を総合すると、亡祐貴の本件事故による死亡に基づくいわゆる死亡慰藉料として原告末吉らの受けるべき金額は一八〇〇万円をもつて相当と認める。

(2) 葬儀費用

原告末吉ら主張のとおり、本件事故と相当因果関係を是認し得る亡祐貴の葬儀費用としては一二〇万円をもつて相当と認める。

(3) 弁護士費用

本件事案の性質・訴訟審理の経過・後記認容額等、本件に現れた一切の事情を斟酌すると、原告末吉らがその損害として負担すべき弁護士費用は一五〇万円をもつて相当と認める。

(三)  当事者間に争いがない事実及び弁論の全趣旨によれば、原告末吉らが亡祐貴の父母であり、同人の前記損害についての賠償請求権を法定相続分に従つて二分の一ずつ相続したことが明らかである。そうすると、相続によるものを含む原告末吉らの損害は、各三二九八万二九九九円(円未満、切捨て)である。

2  原告斉藤ら

(一)  亡孝の損害

(1) 逸失利益

丙第二号証、第一四号証及び原告前田本人尋問の結果によると、亡孝は、高等学校を中退して働いており、平成三年七月二一日から有限会社山崎鉄筋で鉄筋工として日給一万三〇〇〇円を得ていたこと、本件事故当時は、母である原告前田とともに生活し、同原告が糖尿病で左目をほとんど失明して働けなくなつたためこれを扶養していたこと、同原告は原告斉藤と離婚していたものであるが、原告斉藤からの原告前田ないしは亡孝への生活費等の援助はなかつたこと、等の事実が認められる。また、丙第一号証によると、亡孝の平成三年分の所得について、給与(収入金額)を二三六万五〇〇〇円とする所得税の確定申告がなされていることが認められる。

右の事情等に鑑みると、本件において亡孝の逸失利益算定の基礎とすべき年間収入は、亡祐貴についてと同様、賃金センサス平成三年第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者学歴計、小学・新中卒全年齢の平均年収額四七七万三〇〇〇円をもつて相当と認める。原告斉藤らは、男子労働者学歴計の全年齢の平均年収額である五三三万六一〇〇円を主張するが、採用しない。また、亡孝は現に原告前田を扶養していたのであり、その立場は将来も変わらなかつたと考えられることからすると、その生活費として控除すべき割合は四〇パーセントとするのが相当である。

そうすると、亡孝の逸失利益は、次のとおり算定するのが相当であり、五二〇三万一五二三円となる。

四七七万三〇〇〇円(年間収入)×一八・一六八七(稼働可能年齢六七歳から死亡時の年齢一八歳を差し引いた四九年に係るライプニツツ係数)×(一-〇・四〔生活費控除率四〇パーセント〕)=五二〇三万一五二三円(円未満、切捨て)

(2) 慰藉料

右(1)認定のように、亡孝が原告前田を扶養していたことを考えると、同人は一家の支柱に準ずる立場にあつたというべきであり、その他一切の事情を総合すると、亡孝の本件事故による死亡に基づくいわゆる死亡慰籍料は二〇〇〇万円をもつて相当と認める。

(二)  原告斉藤ら

(1) 葬儀費用

丙第三ないし第六号証、第七号証の一・二、第八号証の一ないし三、第九ないし第一二号証、第一三号証の一ないし三、原告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告斉藤らは、亡孝の葬儀費用として主張の二一四万八七八〇円を下らない出捐をしたことが認められるところ、本件事故と相当因果関係を是認し得る亡孝の葬儀費用としては一二〇万円をもつて相当と認める。

(2) 弁護士費用

本件事案の性質・訴訟審理の経過・後記認容額等、本件に現れた一切の事情を斟酌すると、原告斉藤らがその損害として負担すべき弁護士費用は一八〇万円をもつて相当と認めるところ、原告斉藤らは内金として一〇〇万円の支払を求めているので、右一〇〇万円の限度でこれを認容すべきことになる。

(三)  当事者間に争いがない事実及び弁論の全趣旨によれば、原告斉藤らが亡孝の父母であり、同人の前記損害についての賠償請求権を法定相続分に従つて二分の一ずつ相続したことが明らかである。そうすると、相続によるものを含む原告斉藤らの損害は、各三七一一万五七六一円(円未満、切捨て)である。

四  被告らの抗弁について

1  免責

被告らは、被告大阪の無過失を前提として免責を主張するが、本件事故の発生について同被告に過失があつたことは前記二1(一)認定・説示のとおりであるから、右主張は採用できない。

2  過失相殺

被告らは、被害車を運転していた亡祐貴にも過失があつたとして五〇パーセント以上の過失相殺を主張するので検討する。

本件事故の発生状況は前記一2認定のとおりであり、第二通行帯に横向きに停止していた被害車に加害車が衝突したというものである。問題は、被害車が横向きに停止していた原因如何であるが、被害車に乗つていた者が三名とも死亡していることもあつて、これを具体的に明らかにし得る証拠はない。被告らの過失相殺の主張に対する原告末吉らの反論には尤もな面がないではない。

しかしながら、本件事故現場のような高速道路上で、しかも第二通行帯という道路中央部分で車両が横向きに停止するなどというのは通常あり得ない事態である。かかる事態に至つたについては、<1>停止車両の走行にも、あるには停止車両の走行にのみ原因がある場合と、そうではなく、<2>停止車両の走行には全く何らの落ち度もない場合、とがあり得る。本件についてこの観点から考えると、被害車の停止と本件事故の発生との間にはさほどの時間的間隔があつたとも思われないところ、前掲乙第一一号証、第一四号証ないし第一七号証によれば、当時、本件事故現場付近は交通量も少なく、格別のこともなくスムーズに走行車両が流れていたことが明らかであり、走行車両同士の接触・衝突、あるいはこれを回避するための無理な運転といつたことは想定しにくい状況にあつたというべきである。また、前掲乙第七号証及び弁論の全趣旨によると、被害車停止の原因につながるような痕跡・異変は何も見いだされていないことが認められる。一方、当時、午後一一時過ぎという深夜で、土砂降りというほどではないが、やや強目の雨が降つており、路面は湿潤状態であつたこと、被害車は武智運転の車と二台で連れ立つて目的地へ向かう途中で、先行する武智運転車両を追尾する恰好で走行していたこと、被害車は規定以上の出力が出せるように特別の装置を設けた改造車で、運転席もレーシング用バケツトシートに改造されていたこと、さらに、亡祐貴は、運転免許を取得してまだ一年余にすぎず、その間に追突による人身事故を二回も起こしたことがあること、等の事情が存在する。そして、未成年の者が友人など同年配の仲間を乗せたときなどは、往々にして自己の運転技量を逸脱する運転方法に及ぶことがあることは一般に知られているところである。以上を彼此総合勘案すると、被害車の停止は、<2>の場合に属するかもしれない可能性がないとはいえないにしても、<1>の場合、しかもそのうちどちらかといえば被害車の走行にのみ原因がある場合に当たるとみるが一般社会通念の赴くところというべきである。したがつて、被害車が停止したについては、これを運転していた亡祐貴に何らかの過失があつたものと推認するのが相当である。

そして、本件事故に対する亡祐貴の過失割合は、被告大阪の前方不注視という運転者としての基本的注意義務違反及び制限速度を三〇キロメートル超える違反があつたにしても、また、亡祐貴の過失内容を特定することはできないにしても、本件事故が、スムーズに流れる高速道路上の深夜・降雨中の出来事で、高速道路の進路前方に横向きに停止している車両があるなどということはおよそあり得べからざることであることを考えると、損害負担の公平の見地にも照らし、三〇パーセントをもつて相当と認める。

被告らの過失相殺の主張は、原告末吉らに対する関係で右の限度で理由があり、その余は失当である。被告らは原告斉藤に対する関係でも過失相殺を主張しているが、亡孝は被害車の同乗者であるから、同人及び原告斉藤らの損害について過失相殺をすることはできない。

なお、右の過失相殺により、原告末吉らの損害額は各二三〇八万八〇九九円(円未満、切捨て)となる。原告斉藤らの損害額は各三七一一万五七六一円のままである。

五  損害の填補

1  原告末吉ら

原告末吉らが自賠責保険から本件事故に基づく損害賠償として三〇〇〇万円の支払を受け、一五〇〇万円ずつを各損害賠償請求権に充当したことは同原告らの自認するところであるから、これを各損害額から差し引くのが相当である。そうすると、原告末吉らの各損害額は八〇八万八〇九九円である。

2  原告斉藤ら

原告斉藤らが自賠責保険から本件事故に基づく損害賠償として三八七〇万八九六〇円の支払を受け、一九三五万四四八〇円ずつを各損害賠償請求権に充当したことは同原告らの自認するところであるから、これを各損害額から差し引くのが相当である。そうすると、原告斉藤らの各損害額は一七七六万一二八一円である。

なお、原告末吉らは、原告斉藤らの請求について、搭乗者傷害保険からの死亡保険金一〇〇〇万円が支払われているとして云々するが、前記説示のとおり原告末吉らは原告斉藤らに本件事故による損害賠償責任を負わないから、この点についての判断はしない。

六  結論

1  以上によると、次のとおりとなる。

(一)  原告末吉らの請求

被告らに対する関係で、原告末吉ら各自に対し、連帯して、それぞれ、八〇八万八〇九九円、及び二三〇八万八〇九九円に対する本件事故日である平成三年九月一八日から平成四年八月一〇日までの、八〇八万八〇九九円に対する平成四年八月一一日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。なお、原告末吉らに自賠責保険金三〇〇〇万円が支払われたのが平成四年八月一〇日であることは、弁論の全趣旨によつて明らかである。

(二)  原告斉藤らの請求

被告らに対する関係で、原告斉藤ら各自に対し、それぞれ、一七七六万一二八一円、及び三七一一万五七六一円に対する本件事故日である平成三年九月一八日から平成五年一月二五日までの、一七七六万一二八一円に対する平成五年一月二五日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。なお、原告斉藤らに自賠責保険金三八七〇万八九六〇円が支払われたのが平成五年一月二五日であることは、弁論の全趣旨によつて明らかである。

原告末吉らに対する請求は理由がない。

2  よつて、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞)

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